勝つ人は、いつもポジティブじゃない。

まさたこ

こんにちは。aim TENNIS ACADEMY代表の、まさたこです。
今日は、多くの人に意外に聞こえるかもしれませんが、「勝つ人は、いつもポジティブじゃない。」というお話をしたいと思います。
現代のスポーツメンタル論では、「常にポジティブであれ」「ネガティブな感情は排除すべき」という教えがあふれています。SNSでも「ポジティブマインド」「前向きな気持ちだけが大切」といったメッセージが溢れています。
しかし、実際のトップアスリートや勝負の世界で結果を出している人々の内面を紐解くと、そこには意外な真実があります。この記事では、その真実に迫りながら、「本当の強さ」とは何かを考えていきたいと思います。

目次

いつもポジティブじゃなくていい——本当の強さとは

まず最初に伝えたいのは、「いつもポジティブでいる必要はない」ということです。

もちろん、前向きな気持ちや明るい考え方は大切です。成功を想像したり、自分を励ますポジティブな言葉は、パフォーマンスを向上させる力を持っています。

しかし、テニスの試合中や練習中、以下のような状況に直面したとき:

  • ミスが続いてしまうとき
  • 相手の勢いに押されているとき
  • 自分のプレーが全く思うようにいかないとき
  • プレッシャーで緊張が高まっているとき

そんな時に無理にポジティブでいようとすることが、逆に大きな心の負担となり、パフォーマンスを下げてしまうことがあるのです。

「ポジティブであれ」というプレッシャー

「ネガティブな感情を持ってはいけない」「常にポジティブでなければ」というプレッシャーは、選手に大きな心理的負担をかけます。

例えば、試合中にミスが続いて「くそっ、なんでだ!」と思った瞬間に、「いけない、ポジティブにならなきゃ」と自分を責めてしまう。すると今度は「ポジティブになれない自分」に対するフラストレーションが生まれ、さらなる悪循環に陥ってしまうのです。

だからこそ、「ネガティブな感情もあっていい」と認めることが、本当に強いメンタルを育てる第一歩なのです。

プロ選手たちの「内なる葛藤」

トッププレーヤーたちも、常にポジティブなわけではありません。

テニス界のレジェンド、ジョン・マッケンローは、コート上での感情的な爆発で知られていました。また、現代のトップ選手であるノバク・ジョコビッチも、試合中にラケットを叩きつけたり、怒りを表現することがあります。

彼らはネガティブな感情を持つこと自体を否定せず、それを自分なりの方法で表現し、時には力に変えてきたのです。

ラファエル・ナダルはインタビューでこう語っています。「もちろん、ネガティブな感情はあります。大切なのは、それをどう扱うかです。私は時間をかけてその感情と向き合うことを学びました。」

心理学から見た「感情の受容」

心理学の分野でも、「感情の抑圧」より「感情の受容」のほうが精神的健康に良いとされています。

アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)という心理療法では、ネガティブな感情も含めて自分の感情をそのまま受け入れ、その上で価値のある行動を選択することが推奨されています。

つまり、「悔しい」「怖い」「不安」といった感情を否定するのではなく、まずはそれらを「今、自分はこう感じている」と受け入れること。その上で、自分の大切にする価値(例:全力を尽くす、フェアプレーする)に基づいた行動を選ぶのです。

この考え方は、テニスプレーヤーのメンタルトレーニングにも大いに役立ちます。

ネガティブな感情を”力”に変える方法

では、具体的にどうすればネガティブな感情を力に変えることができるのでしょうか?ここからは、私自身の経験と、多くの選手を指導してきた中で見いだした方法をお伝えします。

1. 感情を受け入れる——自分の内側と向き合う勇気

強い選手は、自分の感情を否定しません。

  • 悔しい
  • 苦しい
  • 怖い
  • 焦る
  • 怒り

そんなネガティブな感情も、「今の自分が本気で戦っている証拠」として受け入れます。

感情を受け入れるためのステップ

  1. 感情を名前で呼ぶ 「今、私は悔しさを感じている」「今、不安を感じている」というように、自分の感情に名前をつけて認識します。これを心理学では「感情のラベリング」と呼びます。
  2. 感情を判断せずに観察する 「この感情は良い/悪い」と判断せず、「今、こういう感情がある」と客観的に観察します。
  3. 身体感覚に注目する 感情は身体感覚として現れます。「胸が締め付けられる」「肩に力が入る」「呼吸が浅くなる」など、感情に伴う身体の変化に気づくことで、感情をより客観的に捉えられるようになります。
  4. 「自分≠感情」と理解する 「私は怒りそのものではなく、今、怒りを感じている」というように、自分と感情を区別します。感情は一時的な心の状態であり、あなた自身ではありません。

実例:感情と向き合った高校生の物語

当スクールに通う高校生のAさんは、試合中にミスをすると極度に落ち込み、そこから立ち直れないという課題を抱えていました。

私たちは彼女と「感情の受け入れ」のワークを行いました。まず、ミスをしたときの感情をノートに書き出すことから始めました。「悔しい」「情けない」「不安」「恥ずかしい」など、様々な感情が出てきました。

次に、それらの感情が身体のどこに現れるかを意識してもらいました。「胸が締め付けられる」「喉が詰まる感じ」「足が重くなる」など、具体的な身体感覚と結びつけることで、感情をより客観的に捉えられるようになりました。

そして試合中には、ミスをしたときに「今、私は悔しさを感じている」と心の中で唱え、その感情を3〜5秒間受け入れた後、次のプレーに移るようにしました。

この取り組みを続けた結果、Aさんは「ミスから立ち直る力」を身につけ、大会で自己最高の成績を収めることができました。彼女は「感情と戦うのではなく、認めることで逆に自由になれた」と語っています。

2. “負けたくない”気持ちを燃料にする——闘争心を味方につける

ポジティブな気持ちだけでなく、「負けたくない」「絶対に負けたくない」という気持ちも、強さの源になることがあります。

  • この相手には絶対に負けたくない
  • 今までの努力を無駄にしたくない
  • ここで諦めたら、自分が許せない
  • 応援してくれている人たちの期待に応えたい

そんな一見ネガティブとも取れるエネルギーも、「力に変える」ことができれば、それは立派な強さなのです。

“闘争心”を燃料にする方法

  1. 「負けたくない理由」を明確にする 「なぜ負けたくないのか」を具体的に言語化しておくことで、闘争心がより明確なエネルギーに変わります。例えば「前回の雪辱を果たしたい」「応援してくれる家族に結果で恩返ししたい」など。
  2. “怒り”を集中力に変える 怒りのエネルギーは、適切に扱えば強力な集中力に変わります。ミスしたときの怒りを「次は絶対に決める」という集中力に変換するイメージを持ちましょう。
  3. “意地”の力を認識する 「絶対に諦めない」「最後まで食らいつく」という意地や執念も、強さの一部です。特に劣勢の場面で、この「意地」が逆転の原動力になることがあります。

プロが実践する「闘争心の活用法」

多くのトッププレーヤーは、「闘争心」や「負けたくない気持ち」を大切にしています。

ラファエル・ナダルは「私をドライブするのは、勝ちたいという情熱だけでなく、負けることへの恐れでもある」と語っています。

また、大坂なおみ選手も「私は完璧なプレーをする必要はない。ただ相手より多くポイントを取ればいい」という実践的なマインドセットを持ち、時に「絶対に負けたくない」という闘争心を前面に出すプレーで勝利を掴んでいます。

実例:闘争心で逆転した中学生の物語

当スクールに通う中学生のBくんは、元々穏やかな性格で、試合中も常に冷静にプレーするタイプでした。しかし、重要な場面になると「勝ちたい」という思いよりも「ミスしないように」という消極的な気持ちが先立ち、結果として力を発揮できないことが多かったのです。

そこで私たちは、彼の中にある「負けたくない」気持ちを引き出すワークを行いました。「あなたはどんなときに『絶対に負けたくない』と思いますか?」という問いから始め、彼自身の闘争心と向き合ってもらったのです。

最初は戸惑っていたBくんも、「実は、バカにされたくない」「親に結果を見せたい」という気持ちがあることに気づきました。それらは一見ネガティブな動機かもしれませんが、彼のプレーを変える原動力になり得るものでした。

試合前には「負けたくない理由」を思い出し、その気持ちを認めた上でコートに立つようにしました。また、ピンチの場面では「ここで諦めたら、後悔する」と自分に言い聞かせることも練習しました。

この取り組みを続けた結果、Bくんは徐々に勝負強さを身につけていきました。特に接戦や劣勢の場面での粘りが増し、「絶対に負けたくない」という気持ちが、プレーの質を高める原動力になっていったのです。

3. ネガティブな感情に”意味”を与える——感情を味方につける

ただのネガティブな気持ちも、「意味」を与えることで力に変わります。

  • ミスしたから、もっと集中しよう
  • 苦しいからこそ、自分を信じてみよう
  • 悔しいから、次は絶対に勝とう
  • 恐怖を感じるのは、それだけ大切な場面だから

そう考えることで、「感情が行動に繋がる」ようになります。

感情に意味を与える具体的方法

  1. 「この感情は何を教えてくれているか?」と問いかける 不安や恐れなどのネガティブ感情には、多くの場合「メッセージ」が含まれています。例えば、不安は「もっと準備が必要かもしれない」というメッセージかもしれません。感情を「敵」ではなく「メッセンジャー」として捉えてみましょう。
  2. 感情を「行動のきっかけ」に変換する 感情を感じたら「では、私は次に何をすべきか?」と自問します。例えば、ミスへの怒りを感じたら「次は基本に立ち返ろう」という行動に変換します。
  3. 「感情→意味→行動」の連鎖を意識的に作る 普段から「〇〇と感じたら、△△という意味があり、□□しよう」というパターンを意識的に作っておきます。例えば「不安を感じたら、それは集中するべき合図であり、呼吸を整えて準備しよう」といった具合です。

心理学からの知見:「リフレーミング」の力

心理学では「リフレーミング(再枠組み化)」という技法があります。これは、ある状況や感情を別の視点から見ることで、その解釈や意味を変えるというものです。

例えば、試合前の緊張を「パフォーマンスの妨げ」と捉えるのではなく、「体が最高のパフォーマンスのために準備している状態」と再解釈することで、同じ身体感覚でも意味が大きく変わります。

このリフレーミングは、ネガティブな感情に建設的な意味を与える上で非常に効果的な方法です。

実例:感情に意味を見出した女性プレーヤーの物語

当スクールに通う30代のCさんは、試合になると極度の緊張から手が震え、特にサーブが打てなくなるという問題を抱えていました。何度も「もうテニスを辞めようか」と考えるほど苦しんでいたそうです。

Cさんと取り組んだのは、その「緊張」というネガティブな感情に新しい意味を与えることでした。

まず、「緊張」という感情が教えてくれているメッセージは何かを一緒に考えました。その結果、「テニスが私にとって大切だから緊張する」「良いプレーをしたいという願望の表れ」という意味を見出すことができました。

次に、その緊張を「行動のきっかけ」に変換するワークを行いました。「緊張を感じたら、それは『準備の合図』。深呼吸をして、自分のルーティンに集中しよう」というパターンを確立していったのです。

さらに、「緊張→大切な合図→深呼吸と集中」という連鎖を練習中から意識的に作り、試合本番でも実践できるようにしました。

この取り組みを続けた結果、Cさんの試合でのパフォーマンスは劇的に向上しました。以前は恐怖の対象だった緊張が、今では「さあ、始まるぞ」という前向きな合図に変わったと言います。「緊張はまだありますが、それが邪魔ではなく、むしろパフォーマンスを高めてくれるものになりました」と彼女は語ってくれました。

なぜ「感情の正直さ」が強さになるのか

ここまで、ネガティブな感情を受け入れ、力に変える方法についてお話ししてきましたが、ここからは、なぜ「感情の正直さ」がテニスにおいて重要なのかについて掘り下げていきたいと思います。

「完璧な自分」から解放される

「常にポジティブでなければならない」という思い込みは、「完璧な自分でなければならない」という呪縛につながります。しかし、人間は完璧ではありません。ネガティブな感情も含めて自分を受け入れることで、この呪縛から解放され、より自然体でプレーできるようになります。

リソースの節約

感情を抑圧したり、無理にポジティブに変換しようとしたりするには、多大な精神的エネルギーを使います。一方、感情をそのまま受け入れれば、そのエネルギーを他の部分(集中力や戦術的思考など)に回すことができます。

「本物の強さ」を育む

他人から見て「常に明るく前向き」に見えるプレーヤーと、「時に感情をさらけ出しながらも、それを力に変えられる」プレーヤー。どちらが真の意味で「強い」のでしょうか?

私は後者だと考えています。なぜなら、他人の目を気にして作り上げた「ポジティブな仮面」は、いつか必ず割れてしまうからです。一方、自分の感情と正直に向き合い、それを受け入れた上で前に進む力は、どんな局面でも発揮できる「本物の強さ」になります。

「完全なる受容」がもたらす自由

心理学者カール・ロジャースは「人は完全に受容されたときに初めて変化できる」と言いました。これは感情にも当てはまります。ネガティブな感情も含めて自分をまるごと受け入れることで、逆説的にその感情から自由になり、変化する可能性が生まれるのです。

ネガティブな感情との付き合い方——実践的なヒント

最後に、日々の練習や試合で実践できる「ネガティブな感情との付き合い方」について、具体的なヒントをお伝えします。

試合前:感情の「準備体操」

試合前は誰でも様々な感情が湧き上がります。それらを無視するのではなく、あえて向き合う時間を作りましょう。

実践法:感情スキャン

  1. 試合の1〜2時間前に、静かな場所で5分ほど時間をとります。
  2. 目を閉じて、今の感情に意識を向けます。「不安」「緊張」「期待」「焦り」など、どんな感情があるか観察します。
  3. それぞれの感情を「今、◯◯を感じている」と認識します。
  4. 「これらの感情があって当然だ」と自分に言い聞かせます。

この「感情スキャン」を行うことで、試合中に突然感情に襲われるリスクを減らし、心の準備ができます。

試合中:「感情の一時停止」テクニック

試合中に強い感情に襲われたとき、それを完全に無視することはできませんが、一時的に「棚上げ」する方法があります。

実践法:感情ボックス

  1. 強い感情を感じたら、心の中でその感情を「箱」に入れるイメージをします。
  2. 「この感情は大切だけど、今はプレーに集中する。試合後にちゃんと向き合おう」と自分に言い聞かせます。
  3. 深呼吸をして、次のポイントに集中します。

このテクニックは、感情を否定するのではなく、「後で向き合う」と約束することで、一時的に感情から距離を取るものです。

試合後:「感情の整理」習慣

試合後は、感情を整理する重要な時間です。特にネガティブな感情が残っている場合は、それをそのままにせず、きちんと向き合いましょう。

実践法:感情日記

  1. 試合から数時間後(感情が落ち着いてから)、15分ほど時間をとります。
  2. 試合中に感じた感情を書き出します。特にネガティブな感情に注目します。
  3. それぞれの感情について「この感情から何を学べるか」を考え、書き留めます。
  4. 最後に「次の試合に向けて、どう活かすか」という行動計画を立てます。

この「感情日記」の習慣により、ネガティブな感情が単なる「不快な経験」で終わるのではなく、成長のための「貴重なデータ」に変わります。

最後に——ネガティブも強さの一部

もし今、

「自分はネガティブだからダメだ」

と感じているなら、その感情を“力に変える”チャンスだと捉えてみてください。

ネガティブな感情も、「自分が本気で戦っている証」だからこそ、それを否定せず、受け入れてみましょう。

その上で、

「自分は絶対に負けたくない」

という気持ちを燃料に、また一歩、前に進んでみましょう。

テニスは、ただ技術を競うスポーツではありません。自分自身と向き合い、時に湧き上がる様々な感情と共に戦うメンタルスポーツでもあります。

「常にポジティブであること」よりも大切なのは、「自分の感情と正直に向き合い、それを力に変えていく勇気」ではないでしょうか。

そのプロセスこそが、テニスを通じて得られる最大の財産の一つなのだと、私は信じています。

さあ、またコートで会いましょう。

ネガティブな自分も含めて、本気で戦うあなたを、僕たちは全力で応援します。

aim TENNIS ACADEMY 代表 まさたこ

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