
こんにちは。aim TENNIS ACADEMY代表の、まさたこです。
今日は、テニスプレーヤーの多くが心の奥底で感じている「ミスが怖い」という気持ちについて、深く掘り下げてお話ししたいと思います。
この記事を読み終えるころには、「ミスへの恐怖」と向き合い、それを乗り越えるための具体的な考え方やテクニックが見えてくることを願っています。
ミスは怖くて、当たり前
まず、はっきり言います。
「ミスが怖い」と感じるのは、当然のことです。
それだけ、”勝ちたい””うまくなりたい”と思っている証拠だからです。
- 大事な試合でのダブルフォルト
- 相手のプレッシャーに負けてしまったとき
- 自分のミスでチームが負けた瞬間
- 応援してくれている人の前でのミス
そんな経験は、初心者からプロ選手まで、テニスをしている誰もが一度は経験しています。
プロ選手のミスへの恐怖
テニス界のトップ選手でさえ、「ミスへの恐怖」と常に向き合っています。
2019年全豪オープンで準決勝まで進んだ錦織圭選手は、あるインタビューでこう語っています。 「もちろん、重要なポイントではミスが怖い時がある。でも、その恐怖と向き合い、それでも攻めの姿勢を崩さないことが大切だと学んだ」
また、20回以上のグランドスラムを制したロジャー・フェデラー選手も、「キャリアの初期は大事なポイントでミスするのが怖くて、消極的なプレーになることがあった」と振り返っています。
つまり、「ミスが怖い」という感情は、テニスプレーヤーなら誰もが抱える普遍的な課題なのです。
私自身の「ミスへの恐怖」との戦い
私自身も、選手時代には「ミスへの恐怖」に何度も苦しみました。
特に忘れられないのは、大学時代のインカレ地区予選です。第3セットのタイブレーク、5-4とリードしていた私のサービスポイント。あと2ポイント取れば勝利という場面でした。
その瞬間、頭の中で「ミスしたらどうしよう」という声が大きくなり、結果的に消極的なサーブを打ってしまいました。相手に簡単に攻められ、そこから流れが変わり、最終的には7-6で敗れてしまったのです。
この経験から私は、「ミスへの恐怖」がいかにプレーを制限し、本来の力を発揮できなくするかを身をもって学びました。同時に、その恐怖とどう向き合うかが、テニスにおいて極めて重要なテーマだと気づいたのです。
「ミスへの恐怖」が生まれるメカニズム
なぜ私たちは「ミスが怖い」と感じるのでしょうか?
心理学的に見ると、これには主に3つの要因があります:
- 結果への執着:勝敗や評価など、結果に対する強い執着
- 自己価値との結びつき:「ミス=自分の価値の低下」という思い込み
- 否定的な予測:ミスした後の悪い状況を想像してしまう傾向
これらの要因が複合的に作用し、「ミスへの恐怖」を生み出しているのです。
しかし、この恐怖を完全になくすことは難しいでしょう。それよりも大切なのは、その恐怖を認識しながらも、それに支配されないプレーをする方法を身につけることです。
だからこそ、「ミスが怖い自分」を責めるのではなく、その気持ちとどう向き合うかが重要なのです。
“次の一球”に集中する考え方
「ミスへの恐怖」と向き合うための中心的な考え方が、“次の一球”に集中するというマインドセットです。
1. ミスは”過去”にしか存在しない
テニスは、常に”今”のスポーツです。 どんなにミスをしても、次のポイントは、またゼロから始まります。
- 過去のミスは取り返せない
- 未来の結果もわからない
- でも、”今”だけは、自分の力で変えられる
心理学では、これを「マインドフルネス(今この瞬間への気づき)」と呼びます。過去や未来ではなく、今この瞬間に意識を向けることで、ネガティブな感情や思考からの解放が可能になるのです。
だからこそ、「次の一球に全力を注ぐ」ことが、試合でのメンタルを安定させる最大のポイントとなります。
実践テクニック:「リセットルーティン」
試合中、ミスをした後に心を切り替えるための「リセットルーティン」を持つことが効果的です。
例えば:
- 深呼吸を1回する
- ラケットのストリングを直す(または別の簡単な動作)
- 「次」「今ここ」などの言葉を心の中で唱える
- 前を向いて次のポイントに備える
このルーティンを練習中から繰り返し実践することで、試合本番でも自然と「過去のミス」から「次の一球」へと意識を切り替えられるようになります。
2. ミスは”成長のサイン”
ミスするということは、それだけ新しいことに挑戦している証拠です。
- 攻めのショットを選んだ結果のミス
- 強気で前に出た結果のネットミス
- 新しい技術を試した結果の一時的な不調
これらは、”挑戦の証”であり、“成長のサイン”でもあります。
成長心理学の第一人者であるキャロル・ドゥエックは、「成長マインドセット」という概念を提唱しています。これは、失敗や挫折を成長の機会と捉える考え方です。
「失敗は能力の欠如ではなく、まだ十分に努力していない証拠。そして、その努力こそが能力を育てる」というのが、成長マインドセットの核心です。
むしろ、ミスを恐れずに挑戦できる選手が、最終的には大きく成長し、勝利を掴むものなのです。
実践テクニック:「ミス日記」
練習や試合でのミスを記録する「ミス日記」をつけることで、ミスを「失敗」ではなく「学びの機会」と捉える習慣が身につきます。
記入項目の例:
- どんな状況でミスしたか
- ミスの技術的な原因は何か
- そこから学べることは何か
- 次回の改善策
この日記を継続することで、「ミス=悪いこと」という固定観念から解放され、「ミス=成長のためのデータ」という前向きな捉え方ができるようになります。
プロ選手に学ぶ「ミスを恐れない姿勢」
テニス界の伝説的選手、アンドレ・アガシは、「チャンピオンになるためには、ミスを恐れずに自分のショットを信じる必要がある」と語っています。
また、最近まで現役だったナダルも「完璧を求めすぎると、逆に萎縮してミスが増える。大切なのは、ミスを受け入れつつも、自分のプレースタイルを貫くこと」と述べています。
彼らのような偉大な選手でさえ、ミスは日常的に経験するものです。違いは、そのミスをどう捉え、次にどう活かすかという点にあるのです。
3. “ミス”と”失敗”を区別する
テニスにおいて、「ミス」と「失敗」は明確に区別して考える必要があります。
- ミス:一瞬の結果、ショットが予定通りにいかなかったこと
- 失敗:諦めてしまうこと、挑戦をやめてしまうこと
一度のミス、あるいは連続したミスがあったとしても、それは単なる「出来事」に過ぎません。真の失敗は、そのミスによって自分を見限り、挑戦をやめてしまうことなのです。
ミスの種類とその意味
テニスにおけるミスには、大きく分けて2種類あります:
- アンフォースドエラー:相手からのプレッシャーなしに自分のミスで失点すること
- フォースドエラー:相手の良いショットが原因で対応できずに失点すること
多くの選手は、特に「アンフォースドエラー」を恐れがちです。しかし、攻撃的なプレーを選択すれば、必然的にリスクは高まり、アンフォースドエラーの可能性も増えます。
大切なのは、そのリスクを恐れず、「このショットなら相手を崩せる」という確信を持って打つことです。たとえミスになったとしても、その選択自体に価値があるのです。
実践テクニック:「ミスの再定義」
ミスへの恐怖を和らげるために、「ミス」という言葉自体を再定義してみましょう。
例えば:
- 「ミス」→「フィードバック」
- 「エラー」→「学習の機会」
- 「失敗」→「成長のステップ」
こうした言葉の置き換えは、単なる言葉遊びではありません。脳科学的に見ても、使用する言葉によって脳内の反応やその後の行動が変わることが明らかになっています。
ポジティブな言葉で状況を捉え直すことで、ミスへの恐怖が軽減され、次のプレーにより集中できるようになるのです。
aimでの取り組み:「チャレンジポイント」の導入
aimでは、練習の中に意図的に「チャレンジポイント」を設けています。これは、「ミスを恐れずに攻めるプレー」を奨励するための取り組みです。
例えば、練習試合の中で「このゲームは思い切り攻めるプレーをしてみよう」と設定します。結果ではなく「挑戦する姿勢」を評価することで、ミスへの恐怖から解放され、より積極的なプレーができるようになります。
この「チャレンジポイント」での経験が、実際の試合での勇気あるプレーにつながっていくのです。
ミスへの恐怖を乗り越えた実例
ここからは、実際にaimで指導してきた中で、「ミスへの恐怖」を乗り越え、大きく成長した選手たちの物語をご紹介します。
中学生Aくんの物語:「完璧主義」からの解放
中学2年生のAくんは、非常に技術が高く、練習では素晴らしいショットを連発する選手でした。しかし試合になると、「ミスをしてはいけない」という思いから極端に消極的になり、実力を発揮できないでいました。
私たちがAくんに提案したのは、「ミスカウント方式」という独自のアプローチです。これは、1試合に許容できるミスの数をあらかじめ設定しておくというものです。
例えば「この試合では15回までのミスは許容範囲」と決めておき、その範囲内であれば、ミスを気にせず積極的にプレーするという方法です。
最初は戸惑っていたAくんでしたが、徐々にこの考え方に慣れていきました。「ミスしても良い」という心理的安全性が生まれたことで、逆に思い切ったプレーができるようになり、結果としてミスも減っていったのです。
現在のAくんは、北海道大会でしっかり実力を発揮しています。「ミスを恐れないことで、本当の自分のテニスができるようになった」と彼は言います。
40代女性Bさんの物語:「観客の目」からの解放
地域の女子ダブルス大会に出場していたBさんは、「周りから見られている」という意識が強く、ミスするたびに恥ずかしさを感じていました。特にパートナーや応援に来てくれている人の前でのミスが怖く、試合になると極度に緊張していました。
Bさんには、「パフォーマンスフォーカス」という考え方を紹介しました。これは、「結果」や「他者の評価」ではなく、「自分のプレーそのもの」に意識を向ける方法です。
具体的には、試合中に意識するポイントを「姿勢」「フットワーク」「スイング」など、プレーの要素に絞り込みます。こうすることで、「ミスした後の周りの反応」という不安から意識を解放し、プレーそのものに集中できるようになります。
また、「観客がいるときこそ、思い切ったプレーを」という逆転の発想も取り入れました。「見られているからこそ、自分の最高のテニスを見せよう」という前向きな捉え方です。
この考え方の転換により、Bさんのプレーは大きく変わりました。以前は緊張から硬くなっていた動きが流動的になり、ミスを恐れない攻撃的なプレーが可能になりました。結果として、パートナーとの連携も良くなり、初めて地区大会で優勝するという成果を挙げることができたのです。
高校生Cさんの物語:「次の一球」への集中
高校のテニス部に所属するCさんは、技術的には高いレベルを持ちながらも、一度ミスをすると立ち直れないという課題を抱えていました。「あのミスさえなければ」という思いが頭から離れず、1つのミスが連鎖的に次のミスを生み出す悪循環に陥っていたのです。
Cさんと取り組んだのは、「次の一球フォーカス」トレーニングでした。これは、意図的にミスが起きやすい状況を作り出し、そこからいかに速く「次の一球」に意識を切り替えられるかを練習するものです。
例えば、コーチが突然「今のはミス!」と声をかけ、その直後に球出しをする。選手は素早く気持ちを切り替え、その球に全力で対応する——といった練習方法です。
また、試合中に「キーワード」を設定し、ミスした後に心の中で唱えることも実践しました。Cさんの場合は「今ここ」というシンプルな言葉でした。
これらの取り組みにより、Cさんは徐々に「ミスからの立ち直り」が速くなっていきました。以前なら1つのミスで崩れていたゲームも、落ち着いてプレーできるようになり、好成績を収めることができました。
彼女の言葉が印象的です。「ミスが怖いという気持ちはまだあります。でも、その恐怖に支配されるのではなく、一球一球に全力を注ぐことで、結果的にミスも減り、テニスが楽しくなりました」
あなたも実践できる「ミスへの恐怖」克服法
これまでの内容を踏まえ、あなたもすぐに実践できる「ミスへの恐怖」克服のための具体的な方法をご紹介します。
1. 「次の一球」フォーカス・トレーニング
練習中から「次の一球」に集中する習慣を身につけましょう。
やり方:
- 練習相手と交互にラリーをする
- 意図的にミスをする場面を作る(例:難しいショットに挑戦する)
- ミスした後、最大3秒以内に「次」と声に出す
- 直ちに次の球に100%集中する
- これを10分間繰り返す
このトレーニングを週に2〜3回行うことで、ミスからの「切り替え力」が鍛えられていきます。
2. 「前向きな自己対話」の習慣化
ミスをした後の内なる声がけ(自己対話)を意識的に変えていきましょう。
ネガティブな自己対話:
- 「またミスした…」
- 「なんでできないんだろう」
- 「みんなに見られてる…」
ポジティブな自己対話:
- 「次は決める!」
- 「一球一球、集中」
- 「挑戦する自分を褒めよう」
自分に合った「ポジティブフレーズ」を3つほど用意し、練習や試合中に意識的に使うようにしましょう。
3. 「リスク許容範囲」の設定
ミスを恐れずにプレーするために、「許容できるリスク」を明確にしておくことも効果的です。
やり方:
- 試合前に「今日挑戦したいプレー」を3つ決める
- それぞれについて「許容できるミスの回数」を設定する
- その範囲内であれば、結果を気にせず思い切ってプレーする
- 試合後、挑戦した回数とミスの回数を振り返る
例えば、「今日はサーブを攻めていこう。10本中3本のミスなら許容範囲」といった具合です。
こうした明確な基準があると、「ミスしてもいい場面」が整理され、必要以上に萎縮せずにプレーできるようになります。
4. 「ミスの再解釈」エクササイズ
ミスに対する見方そのものを変える練習も重要です。
やり方:
- 最近の試合や練習でのミスを3つ思い浮かべる
- それぞれのミスについて、以下の質問に答える:
- このミスから何を学べるか?
- このミスは何を教えてくれているか?
- このミスがなかったら、気づけなかったことは何か?
- これらの答えを書き出し、定期的に見直す
このエクササイズを通じて、「ミス=悪いこと」という固定観念から徐々に解放され、「ミス=学びの機会」という新しい解釈が定着していきます。
最後に──ミスが怖いあなたへ
もし今、
「ミスが怖い」
と感じているなら、それは”挑戦している証拠”です。
ミスを恐れないということは、ミスが嫌ではないということではありません。誰もがミスは避けたいと思っています。しかし、その恐怖に支配されず、「次の一球」に全力を注げるかどうかが、テニスの上達と試合での勝利を左右するのです。
さらに言えば、「ミスを恐れる気持ち」との向き合い方は、テニスだけでなく人生においても大きな意味を持ちます。新しい挑戦、未知の経験、困難な課題——こうした場面での「失敗への恐れ」を乗り越える力は、テニスコートで培われた「ミスへの向き合い方」から生まれることも少なくありません。
だから、その気持ちを大切に、そして一歩ずつ乗り越えながら、次の一球に全力を注いでみてください。
その一球が、あなたのテニスを変える一球になるかもしれません。 そして、その経験が、あなたの人生をも豊かにしていくことでしょう。
さあ、またコートで会いましょう。
あなたの”次の一球”を、僕たちは全力で応援します。
aim TENNIS ACADEMY 代表 まさたこ
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